バッハの神学文庫について / 丸山桂介
バッハ Johann Sebastian Bach (1685 – 1750) の歿後間もなくして纏められた遺産目録の内の神学関連書籍リストに基づいて本「文庫」は構成されている。
遺産目録にはバッハの蔵書の、おそらく一分野を成していたと思われる神学・教会関係の書籍のみが列挙され、他ジャンルの書籍は挙げられていない。
教会での職務、とりわけて典礼の用に供される教会音楽の作曲に際して、中でもカンタータ詞の神学的解釈に参照されるべく目録に記載された書籍は集められたと判断される。バッハの活動期にあっても、宗教改革以来のルター派教会の神学的解釈はカンタータ詞の解釈に際して第一に守られるべき判断基準であり、かつ同じくルター派教会に属するとはいえ異なる神学的主張を掲げた敬虔主義等の運動に対して、カントルに課せられたルター正統派の神学思想を響かせるためにこれらの書籍はバッハの手によって繙かれた。
書籍の内訳は「聖書 (註解聖書)」著名な牧師・説教師による「説教集」「神学論」「護教論」及び「聖歌集」になる。その内の「護教論」はローマ・カトリック教会ないし教皇への論難・批判の書であり、教会音楽作曲の現場には直接しないため本「文庫」には含まれない。なお、遺産目録におけるバッハの蔵書の全容に関しては以下の書籍を参照。
★
本「文庫」に収められた資料の大半は北ドイツの小都ヴォルフェンビュッテルの図書館 (Herzog August Bibliothek Wolfenbüttel)に収蔵されている。その他、南ドイツ、テュービンゲンの大学図書館、シュトゥットガルトの図書館 (Württembergische Landesbibliothek Stuttgart)等の蔵書によるバッハ文庫資料がここに収められている。
バッハの蔵書及びそれを補足する資料の収集に多岐に亘る図書館の資料が利用されたのは、17世紀図書資料の散逸、特に第二次大戦による図書館・教会資料館等の焼失による損害のため宗教改革期からバッハの活動期に及ぶ書籍の収蔵がドイツの図書館の中でも、限られた場所に制約され、かつ一図書館でその全体をカヴァーすることが困難なためである。
★
バッハの遺産目録に記載されていない資料の若干が本「文庫」には付加されているが、それは広くバッハの活動期の学問状況を知るためのもの (Zedler の学術百科) 及び神学・説教に関する補足、聖歌集、コラール詞の解釈に必要とされるものである。
加えて若干の書籍はマイクロフィルム・マイクロフィッシュではなく、当時の書籍それ自体によって閲覧され得る (ドレスデン聖歌集等 )。