歌えよ、この涙の谷で

 2017年5月27日 (土) 16:00開演 (⒖:30開場) 東京音楽大学 J館スタジオにて行われたコンサートの解説と動画を一部配信しています。解説は公演当日のプログラム解説の一部に加筆改訂の手が加えられています。

バッハ再考

 バッハ再考 ― 今日に存在するバッハの音楽像は誰によって、かつどのような経緯のもとに構築されたのか。
 再考が再考の名に値するためには、しばしば伝説に過ぎない、伝統という名の風評の塵に埋れている立像を掘り出して立て直す作業こそが要請される。しかもこの作業は、立て直して立像を眺める鑑賞に堕っしてはならない ー 再考は、我々の手に遺され託された「作品」に、即ちバッハの筆になる「楽譜」に繰り返して、幾度となく立ち帰ることによってなされねばならず、その意味において再考は再読に一致する。
 以下に公開されるのは、再読の作業の一環として東京音楽大学附属図書館で行われている「バッハの神学文庫」= 『マタイ』BWV 244 に関する連続講義に併せてのレクチャーコンサートにおけるダンス並びに演奏であって、その内容は以下に要約される ―
1)BWV 244 のファクシミリ・自筆楽譜による第1曲・序曲に内在して響き流れるダンスの形象化。
2)メンデルスゾーンによってなされて「バッハ・ルネサンス」という歴史的評価を得た1829年の『マタイ』再演に関する再考の一例。メンデルスゾーンが改作したアリア “Erbarme dich” の実像を洗い出すための、バッハ自身の楽譜の解析。
3)バッハの創作世界の基底をなした二本の柱。その一本がルター派教会の神学・音楽観であることは衆知の事柄に属す。しかし他方の、第二の柱をなすローマ・カトリック教会の神学・音楽観についてはなお不明の幕に閉ざされていると言うのが正しいであろう。『ヨハネ』BWV 245 に直接するペルゴレージの “Salve Regina” はその不明の音世界に光を当てるための一作業として取り上げられた。
4)器楽はいかなる意味においても単なる世俗音楽ではない。器楽としての装いを纏った教会音楽の一例として「チェロ組曲」BWV 1011は『ロ短調ミサ』の受肉・十字架の問題を抜かして考えることの出来ないダンスの音楽であり、同一の事柄は「フランス組曲」BWV 814 に当てはまる。

 連続講義・レクチャーコンサートの開催に関する東京音楽大学付属図書館の御理解と援助に感謝を添えて

記・丸山桂介

目次
1. 神のダンス
2. Erbarme dich
3. Salve Regina
4. 器楽曲
 
当日のプログラム

I. 『マタイ』再考
『マタイ受難曲』BWV 244より
1. 第1曲「来たれ、娘らよ、われとともに嘆け」 ジグのテンポで ―ダンスとそのステップ講解―
2. 第39 (47) 曲アリア「哀れみたまえ」 メンデルスゾーン版による

II. バッハ・創造の周辺
1. サルヴェ・レジーナ (天の女王マリアよ聴きたまえ) p. 76 ハ短調 / ペルゴレージ
2. チェロ・ソナタ 作品5第1番 イ長調 / ジェミニアーニ

III. 再び バッハを
1. 無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV 1011
2. フランス組曲 第3番 ロ短調 BWV 814

丸山桂介 講義

中丸和美 ソプラノ (第2-3曲目)
臼井雅美 チェンバロ (第2-4曲目, 第6曲目)、バロックダンス (第1曲目)
根津要 チェロ (第2-5曲目)

丸山先生と演奏者